2015年度経済学部ゼミナール委員会主催三田祭論文コンクールにおいて、星野崇宏研究会データ解析班の論文「階層ベイズ条件付きプロビットモデルによる消費者選択行動の解析」が金賞を受賞しました!以下、受賞論文と星野崇宏教授、メンバーのコメントを記載します。
[メンバー]平泰浩・戸田敬之・松村優哉・山口愛・米津了輔
[受賞論文]階層ベイズ条件付きプロビットモデルによる消費者選択行動の解析
分析ソフト SAS9.4, R3.2.2
論文執筆ソフト LaTeX
[星野崇宏教授より]
本研究はミクロデータと集計時系列データといういわゆるマルチソースのデータに対する、動的な離散選択モデルの提案と実データへの適用、さらにはマーケティング施策への応用を目指したものです。
経済学の実証研究においては近年、異質性を無視した理論モデルだけでは現実の行動の予測がうまくできないことが様々な研究から明らかになっています。但し、価格弾力性などに存在する個人の異質性を、固定効果など古典的な計量経済学的アプローチで考慮するだけでは、なぜ異質性が存在するかのメカニズムの理解、さらにはその異質性を考慮した上での政策含意が見出せません。本研究では消費者異質性を通常のミクロデータからだけではなく、商品の広告出稿や口コミといった集計時系列レベルと関連させてその意味を理解することを目的としているという点で、このフレームワーク自体が様々な研究関心に対して有用なアプローチであると考えます。
また単に解析手法の研究にとどまらず、実際の企業のマーケティング戦略に示唆を与える結果を導出したという点でも意義があります。ビッグデータを用いて企業はいわゆる完全価格差別を行うことが非現実的ではないところまで来ているという現状において、企業が利用できる顧客の行動データに加え、公開された集計時系列データも活用するという考え方はマーケティング実務において重要であるだけではなく、今後の統計データの公開や利用の在り方にも示唆を与えるものと考えます。
但し本研究にも残された課題は複数あります。例えば6章にも記載されているような、係数が時変のモデルは個人と時間どちらの観点からも異質性を有するという現実をより表現するモデル拡張の方向性は今後考慮すべきでしょう。また、競合企業間での価格決定に伴う内生性やCMとSNSの関連なども本来的に存在することから、この解析結果とそこから得られるcounterfacturalなシミュレーションについては一定の留保が必要です。
但し、本研究はあくまで学部3年生がゼミ配属後半年で成し遂げた成果であることを考えると、指導教員としては班員に対しては心からその努力を称えたいと思います。よく頑張りました。
[メンバーより]
2015年度のノーベル経済学賞はアンガス・ディートン教授による「貧困層の消費行動分析」が受賞しました。福祉の改善と貧困の削減に向けた公共政策を立案する上で、一人ひとりの消費行動を分析したことが主な受賞理由です。このように、様々な経済現象のメカニズム解明の為に実証的なミクロデータ分析をすることが経済学のフロンティアと言えます。
そこで、私たちの班は昨今のSNSの普及による購買行動の変容に注目し、消費者一人ひとりの認知から購買、共有に至るプロセスの解明に挑みました。さらに「人の非合理性」を扱う行動経済学の見地から、惰性型購買行動を効用関数に反映しました。方法論的には個人レベルの購買データと時系列データの融合モデリングを階層ベイズモデルによって解決したことが新規性です。結果から、本稿提案モデルの有効性が示され、ロイヤリティ・属性情報によって一人ひとりの消費行動に「消費者の異質性」があることが分かりました。
執筆に辺り、体育会・学生コーチ・企業インターンとメンバーそれぞれが多忙な中、先行研究のリサーチやデータ分析、論文執筆を各自割り振り基本的に週一回のゼミの時間を用いて進捗状況の共有と内容についての議論を行いました。夏休み以降はメンバーそれぞれの持ち味が明確化し、プログラミングが得意な人、数理統計に明るい人、作図などの緻密な作業が得意な人、マーケティングに強い人、分析アイデアを提案する人に分かれて効率的に執筆を進めることができました。
新規研究会が金賞を受賞することができたのはメンバー全員の努力の賜物と、教授の熱心なアドバイスのおかげです。論文執筆にアドバイスを下さった星野崇宏教授、大学院生の方々、星野研究会の皆さんにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。